人間関係の心理のあれこれ

人間関係が怖いを楽にする方法についてつらつら綴っていきます。

上手い予定の立て方、上手い壊し方

一般的に神経質の人は要求水準が高い。


というのは、普通の人よりも勉強や仕事で目標を高いところにおいているのである。


したがって要求が満たされた時には、人よりもいい仕事もできるし、仕事量も多い。


神経質が出世型の性格だと言われるゆえんである。


ある著名な医師の話である。


彼は青年医師の頃には、かなり要求水準が高かった。


最初の頃は、一年に一つは論文を書くことを志した。


それができるようになると一年に二つ、そして三つと論文の数が増えていく。


数年後には毎月一つずつ論文を書いていた。


口の悪い仲間からは「論文製造株式会社だ」と悪口を言われた。


だが、彼は学者が勉強しているかどうかということは、何時間机に向かって本を読んでいたとか、いくつ英単語を覚えたかということで決まるのではなく、もっとべつなことで勉強をした、という証拠を示すべきだと考えていた。


この考えは今もって変わらない。


学者が勉強をしたという証拠は、まず立派な論文を書くことにあるのだ。


彼は、ともすれば怠け心に傾きがちな自分に喝を入れるために、今の能力で十分やれそうなことは目標にしなかった。


自己評価よりもやや高めに目標を設定した。


「やれるかな、やれないかな、自分の努力しだいではなんとかやれるかもしれない」と思うテーマに取り組んだのである。


最初のうちはうまくいっていた。


次から次へと論文を書き、多くの新しい症例を発表出来たように思う。


ところが欲が出て、自分の能力をはるかに超えた目標設定をし、ひどい目に遭った。


緻密すぎるスケジュールのとんでもないつけ


医大の講師になって油が乗り切っていた頃のことである。


ふと気がつくと、三カ月に十本以上の論文を書かねばならない状況になっていることに気づいた。


その中には彼が編集する全五巻の著作集もあった。


論文のすべては依頼原稿であったから、期日までに書かないと相手に迷惑をかけてしまう。


計算してみると四百字詰めの原稿用紙にして一日四十枚書かねばならなくなっていた。


日中は仕事があるから、朝から晩まで書くわけにはいかない。


かりに日曜日などに一日中書いても、一日四十枚というのは殺人的スケジュールだった。


彼は観念のまなこを閉じた。


一晩中一睡もしないで考えた。


しかし名案が浮かぶわけはなかった。


とうとう彼は覚悟を決めた。


三カ月間書きまくる以外に手はない。


死んでもやらねばならない。


私は本当に死んでしまうのではないかと思うくらい頑張った。


驚いたことに(今でも信じられないことだが)、三カ月後には、すべての原稿が脱稿したのである。


彼はほとんど夜も一、二時間しか寝ないで机に向かって書きまくっていた。


電車の中でも、大学の昼休みも原稿用紙にしがみついていた。


三カ月が過ぎ、最後の原稿をすべて出版社に渡すと、彼は虚脱状態になった。


いくら寝ても疲れが取れないし、寝ていても悪夢にうなされて飛び起きた。


動作は鈍く、腰が抜けたような格好で歩いていた。


いくら食べても満腹感がなく、もうろうとした生活が一カ月ほど続いた。


体調はすこぶる悪かった。


そのせいで彼は、今でも当時書いた本を手にすると顔をそむけたくなるし、ページをめくる気にもならない。